失語症の理解の難しさ

失語症の理解の難しさ

失語症は脳損傷によって生じます。この脳損傷の部位や性質を確かめるための診断技術は1960年代後半から現在まで、わずかの期間で目を見張る進歩を遂げ、なお進歩し続けています。

 

従来では、脳の病変部位を調べる手段は単純X線写真か気脳写か、血管写くらいしかありませんでした。
気脳写や血管写は患者に相当な負担をかけるにも関わらず、曖昧なデータしか得ることができませんでした。

 

ところが現在では、どの神経線維束が壊されたのかでさえ推定できるくらいにまで、画像化技術が進歩しています。

 

しかし、一方で、脳損傷が生み出す、いわゆる高次脳機能障害を確かめる手段は昔のままです。

 

すなわち、治療者が患者と一対一で、会話をしたり、何かの過大をやってもらったりして、一つ一つ見つけ出していくしか手はありません。
脳は画像化できても、心は画像化できないからです。
脳の血流変化は見ようとすれば見えますが、心の変化を見ることはできないからです。

 

原理的には見えない心の変化を見るための一つの手段として、本人の認知能力の変化を発見することが挙げられます。
例えば、一定のテスト・バッテリーを使って、その成績を調べます。

 

しかし、失語症の人に失語症評価テストをして、この人に失語症があると判断できたとしても、その人の心の中で何が起こっているのか、その人の言語能力発言のどの段階で何が起こっているのか数字が教えてくれることはありません。
心理過程のような、主観的現象が主役を占める複雑な問題の理解には、ある種の洞察力が要請されます。

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