失語症 健忘失語:抽象的態度の障害
健忘失語では抽象的態度の障害が見られる場合があります。
抽象的態度とは何かを説明するために、まずその対極にある具体的態度について説明します。
具体的態度とは、人が何かの課題を与えられ、その課題を解決しようとするとき、与えられた刺激の具体的な性質に捉われてしまうことを言います。
例えば、1本のペンを見せられて、その名前を問われたとします。
このとき、ペンの色や、形状、商標マーク、芯の太さなど、細かいことに観察の目を向けてしまい、名前が思い出せなくなることがあります。
これは、ペンという刺激に対して、具体的態度をとっている状態です。
これに対し、ペンを見せられて、鉛筆でもないし、筆でもない、シャープペンシルでもないなどと、ペンを数ある筆記道具の一種類とみなせば、これは抽象的態度をとっているといいます。
書く道具というペンの一般的な機能を思い出す、そういう脳の働きです。
その対象だけが持つ特徴にこだわるのではなく、その対象が他の類似の対象と併せ持っている共通の性質を見ようとする力です。
抽象的態度と具体的態度は、どちらも対象を理解するときに必要な考え方です。
人間は必要に応じて、どちらかの態度を選択して対象に接していると考えられています。
ところが、脳損傷を受け、健忘失語という失語症になっている状態では、具体的態度はとれるものの、抽象的態度をとることができなくなるケースがあります。